債務不履行による契約解除
大家さんにも、入居者さんにも、初めて賃貸に住もうと思っている方にも、そして、賃貸不動産経営管理士試験を受けようと思っている方にも役立つような、賃貸借契約について連載していきます。特に賃貸不動産経営管理士試験の受験者の方にとって隙間時間にスマホで見直せるようまとめています。是非ご参考にしていただければ幸いです。
今回は、「債務不履行による契約解除」についてです。
賃貸借契約の終了原因としては大きく分けると、期間の満了、解約の申入れ、債務不履行による契約解除、合意解除、その他の終了原因があります。
この中でも特に問題となるのが、「債務不履行による契約解除」になります。
※簡単に言うと、契約違反やルール違反をしたら契約解除ですよという内容です。
解除権の要件
契約当事者が自己の債務を履行しない場合、原則として履行を催告したうえで契約を解除することができます。
解除をするためには、
①履行期の徒過や用法義務違反等の契約違反
②相当期間を定めた催告
②解除権の意思表示
の要件を満たす必要があります。
※新民法では、債務者が履行しないことについての帰責事由が解除の要件としないこととされました。
※民法第541条(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
これら3つの要件について、以下で詳しく見ていきます。
信頼関係の破壊
賃貸借契約は継続的契約で、当事者間の信頼関係に基礎をおいた契約であることから、軽微な不履行を理由に賃貸借契約の解除が認められてしまうと、例えば、1か月分の賃料滞納で借主が住居等を失うこととなり、不履行の程度に比して著しい不利益を被ることになります。
そこで、賃貸借契約の当事者間の信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない場合、解除権の行使は許されないとされています(判例)。
※簡単に言うと、履行期の徒過や用法義務違反等の契約違反があったとしても、信頼関係を破壊するほどのことがないと、ちょっとやそっとじゃ解除できないですよということです。
債務不履行や契約違反
<賃料不払い>
賃料の不払いがあっても、信頼関係を破壊しない特段の事情があるときは、解除権は否定されます(判例)。
どの程度の不履行があれば信頼関係が破壊されたと言えるかは事案ごとに検討されることが要されますが、不払の程度、金額、不払に至った経緯、契約締結時の事情、過去の賃料支払状況等、催告の有無、内容、催告後あるいは解除の意思表示後の借主の対応等を総合的に斟酌して判断されます。一般的には、賃料不払いによる契約解除の主張がなされるのは、賃料の2か月分ないし3ヶ月分が不払いとなった場合です。
また、借主が貸主に賃料を支払わなかったために、賃料保証会社が貸主に未払賃料全額を支払った場合、借主は貸主との関係では賃料の不払いがないといえるのかが問題となります。
この点、「賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当ではない(最判平26.6.26)として、借主による賃料の不払いという事実を認めています。
<用法義務違反>
※借主の用法義務については「賃貸借契約における法律上の借主の義務」を参照してください。
借主は、建物賃貸借契約に定められた使用目的に従って、賃貸不動産を使用収益しなければならないため、定められた使用目的と異なる目的のために建物を使用すれば、契約違反であり債務不履行により契約が解除され得ます。ただし、使用目的違反についても信頼関係が破壊されない事情があれば、解除権は否定されます。
無断増改築や長期不在、ペット禁止特約に違反した飼育も、当事者の信頼関係を破壊するに至る物であれば、契約解除事由となり得ます。
<賃借権の無断譲渡・無断転貸>
借主が貸主に承諾を得ずに賃借権を第三者に譲渡または転貸した場合は、貸主は賃借権を解除することができます(民法第612条第2項)。
ただし、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しないものと解するのを相当とする(判例)と、解除権の行使を限定しています。
催告
解除を行うためには、債務者に不履行状態を是正する機会を与えるために、原則として解除権行使に先立ち、催告をしなければなりません。
ただし、義務違反が重大で、是正の機会を与える必要がないほど賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為がある場合には、例外的に催告をせずとも解除することも可能となります(判例)。
また、無催告解除(催告をせずに契約を解除することができる)の特約については、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理ではないという事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると(判例)、特約の効力を限定的に解しています。
解除権の意思表示
催告後、契約解除は、相手方に対する意思表示を要し、意思表示が相手方に到着した時点で効力が生じます(民法第540条第1項)。この意思表示は、口頭で行うことも可能ですが、一般的には、配達証明付内容証明郵便による方法が採られています。
そして、解除の意思表示は、撤回することはできません(民法第540条第2項)。
また、催告と同時に、「期間内に支払いがない場合には、本書をもって建物賃貸借契約を解除することとします。」と記載して解除の意思表示を行うこともできます。
※民法第540条(解除権の行使)
1.契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2.前項の意思表示は、撤回することができない。
契約当事者が複数の場合の解除権の行使
※「賃貸借契約の当事者(貸主や借主)が死亡した場合」を参照
<貸主が複数の場合>
判例は、賃貸借契約の解除に関する事項は共有物の管理に関する事項に当たる(最判昭47.2.18)とし、賃貸不動産が共有物で、貸主が共有者である場合、過半数の共有持ち分を有する共有者が解除権を行使できる(最判昭39.2.25)としました。
<借主が複数の場合>
民法第544条第1項で「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。」とあり、借主全員に対して解除権を行使する必要があります。
※しかし、判例には、催告・解除について全員に対するものではなく、一人に対する意思表示で足りるとしているものも多いようです。
解除権の効果
賃貸借契約の解除の効果は、将来に向かってのみ効力を生ずるものとされています。
なお、賃貸借契約が解除された場合に、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償請求権の行使は妨げられません。
※民法第620条(賃貸借の解除の効力)
賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。
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