転貸借ついて(転貸借時の当事者間の関係)
大家さんにも、入居者さんにも、初めて賃貸に住もうと思っている方にも、そして、賃貸不動産経営管理士試験を受けようと思っている方にも役立つような、賃貸借契約について連載していきます。特に賃貸不動産経営管理士試験の受験者の方にとって隙間時間にスマホで見直せるようまとめています。是非ご参考にしていただければ幸いです。
今回は、「転貸借」についてです。いわゆる「また貸し」です。
実務的には、大家さんが不動産会社等に全て預けるサブリース方式が「転貸借」となります。また、法人が借りる際に社宅代行会社が部屋を借りて他の法人に貸すというパターンも多いです。
今回は、この「転貸借」についての基礎を説明していきます。サブリース方式について学ぶ前に、まずはこの「転貸借」の基礎を理解しましょう。サブリース方式について詳しくは別の回でやりたいと思います。
大家さんが不動産会社(管理会社)に貸して、さらに不動産会社が他の人に貸すという仕組みです。
大家さんが原賃貸人、不動産会社が借主兼転貸人、他の人が転借人となります。
これら3人の関係はどのような関係になるのでしょうか。
転貸借とは
転貸借とは、貸主から目的物を借りた借主が、それを第三者(転借人)に使用収益させることをいいます。いわゆる「また貸し」です。
サブリース方式による管理はまさに転貸借です。管理業者が貸主(所有者)から賃貸不動産を借り受け、貸主(所有者)の承諾を得て、管理業者自らが転貸人となって不動産を第三者(転借人)に転貸する事業形態です。貸主(所有者)と転借人との間に契約関係は生じません。
サブリース方式による管理以外では、社宅代行会社が借主(転貸人)になることがよくあります。貸主から社宅代行会社が賃貸不動産を借り受け、社宅代行会社が他の法人に転貸する形です。
※ちなみに、法人が借主になって社員が入居する場合は、転貸借ではありません。あくまでの法人が借主で入居する社員は法人の履行補助者という扱いになります。
転貸借は、原則禁止です。ただし、貸主の承諾を得れば転貸借ができます。(民法第612条)
転貸借では、登場人物が三人(貸主、借主兼転貸人、転借人)いるため、三者間での法律関係が生じます。では、それぞれの法律関係はどのようになるのでしょうか。
原賃貸人と借主との関係
貸主(原賃貸人)と借主兼転貸人との賃貸借契約は通常の賃貸借と異なることはありません。貸主(原賃貸人)は転借人に対しても権利行使はできますが、その場合でも借主兼転貸人に他する権利行使が妨げられることはありません。
転借人の故意・過失は借主兼転貸人の故意・過失と同視され、転借人が過失に基づき賃貸物件を毀損した場合、借主兼転貸人が貸主(原賃貸人)に対して責任を負います。
※民法第613条(転貸借の効果)
1.賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2.前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
3.省略
転貸人(兼借主)と転借人との関係
借主兼転貸人と転借人との間で転貸借契約が締結されることになります。これは、両者間では通常の賃貸借契約と異なるところはありません。つまり、借主兼転貸人は転借人に対して賃貸借契約(転貸借契約)に基づいて、直接の権利と義務を有します。賃料未払いや建物明渡し、敷金返還請求などの訴訟も直接やり取りすることになります。
ただし、転貸借契約では以下のような特色があります。
転借人が原賃貸人に対して直接義務を負うので、転借人が原賃貸人に対して義務を履行すれば、その限度で転貸人に対する義務を免れることになります。(民法第613条第1項)
原賃貸借契約が借主の債務不履行により解除され終了した場合、転貸借契約は、原賃貸人が転借人に対して賃貸物件の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了します。(最判平9.2.25)
原賃貸人と借主の間に紛争がある場合には、転借人は債権者が確知できないことを理由として、賃料を供託することができる場合もあります。(東京地判平14.12.27)
原賃貸人と転借人との関係
1.総論
原賃貸人と転借人との間に直接の契約関係は生じません。つまり、例えば原賃貸人と転借人との間で、原賃貸人は転借人に対して修繕義務は負いません。
しかし、「転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う」(民法第613条第1項前段)となります。
賃料支払いだけではなく、保管義務、保管義務違反による損害賠償、賃貸借が終了した場合の目的物返還なども直接義務の内容となります。
2.賃料支払義務
民法第613条第1項前段の「転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う」ことから、原賃貸人が転借人に請求できる賃料の額は、①原賃貸借契約で定めた賃料の額の範囲内であって、かつ②転貸借契約で定めた賃料の額までの範囲内の賃料となります。
例えば、原賃貸借契約の賃料が月額10万円で、転貸借契約の賃料が月額12万円の場合、原賃貸人は転借人に対して月額10万円の請求をすることができます。
また、原賃貸借契約の賃料が月額12万円で、転貸借契約の賃料が月額10万円の場合、原賃貸人は転借人に対して月額10万円の請求をすることができ、残額の2万円は転貸人に請求することになります。
3.原賃貸借契約の終了と転借人の保護
原賃貸借契約が終了した場合に、常に転貸借契約も終了することになるとすれば、転借人は予期せぬ不利益を被り、その地位は不安定になってしまいます。そこで、原賃貸借契約の終了原因によって、原賃貸借契約の終了を原賃貸人が転借人に対抗できる場合と対抗できない場合があります。
<対抗できる場合>
原賃貸借契約が借主(転貸人)の債務不履行により解除された場合は、原賃貸人は転借人に対抗できます(判例)
※原賃貸借契約が借主の賃料不払いにより解除された場合に、原賃貸人が転借人に対して賃貸物件の返還を請求したとき、転貸借契約は転貸人の転借人に対する債務履行不能により終了する(最判平9.2.25)。そして、原賃貸人は転借人に催告することなく原賃貸借契約を終了することができるとしています(最判昭49.5.30)。
<対抗できない場合>
・期間満了または解約申入れの場合
原賃貸借契約が期間満了または解約の申入れにより終了する場合、原賃貸人はその終了を転借人に対抗することができません。
ただし、原賃貸人が転借人にその旨を通知すれば対抗することはできます。通知があれば、転貸借契約は通知後6カ月経って終了します。
・合意解除の場合
原賃貸借契約が合意解除しても、原賃貸人は転借人に対抗できません。
ただし、原賃貸人が借主(転貸人)に対して債務不履行による解除権を有している場合には、転借人に対抗することができます。
※借地借家法第34条
1.建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。
2.建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する。
※民法第613条(転貸借の効果)
1項、2項省略
3.賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
4.原賃貸借契約終了時の契約当事者の地位の移転
原賃貸借契約が終了した場合、当然に地位の移転はありません。
ただし、原賃貸借契約が終了した場合に、原賃貸人が転貸借契約を承継する旨の特約は有効となります。
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