賃貸借契約の当事者(貸主や借主)が死亡した場合
「賃貸不動産経営管理士試験に役立つ!賃貸借契約について学ぼう!」ということで、大家さんにも、入居者さんにも、初めて賃貸に住もうと思っている方にも、そして、賃貸不動産経営管理士試験を受けようと思っている方にも役立つような、賃貸借契約について連載していきます。特に賃貸不動産経営管理士試験の受験者の方にとって隙間時間にスマホで見直せるようまとめています。是非ご参考にしていただければ幸いです。
今回は、契約上の当事者が死亡した場合についてです。
賃貸借の場合、当事者(貸主や借主)が死亡しても賃貸借契約は終了しません。
「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と民法第896条にあります。
では、貸主が死亡した場合、借主が死亡した場合、賃貸借契約はどうなっていくのでしょうか。
貸主が死亡した場合
1.貸主の地位の承継
貸主が死亡した場合、相続人が貸主の地位を承継します。
相続人が複数いる場合は、共同相続となり共有物についての賃貸となります。つまり、相続開始から遺産分割が確定するまでの間は、貸主が複数人いることになります。
遺産分割後は、物件を取得したものが新貸主となります。
※民法第898条(共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
※民法第899条(共同相続の効力)
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
2.貸主が複数の場合と賃料
<相続開始から遺産分割が確定するまでの間>
結論から言えば、貸主の相続が発生し相続人が複数ある場合は、相続開始から遺産分割が確定するまでの間の不動産から生じた賃料債権は、その相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、これを前提に精算されるべきというのが、最高裁の判例です。
※最判平17.9.8
「遺産は、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である」
<遺産分割確定後>
遺産分割の結果に基づいた配分で賃料債権が確定します。
遺産分割には遡及効がなく、相続開始から遺産分割が確定するまでの間の賃料債権は、遺産分割後でも影響はありません。
※民法第427条(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
3.貸主が複数の場合と契約解除
民法第544条第1項で「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。」としています。
しかし一方で、民法第252条本文では「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」とあります。
判例は、賃貸借契約の解除に関する事項は共有物の管理に関する事項に当たる(最判昭47.2.18)とし、賃貸不動産が共有物で、貸主が共有者である場合、過半数の共有持ち分を有する共有者が解除権を行使できる(最判昭39.2.25)としました。
4.実務上では
賃貸不動産経営管理士試験とは関係はないですが、貸主が死亡して相続人が複数ある場合、遺産分割が確定するまでの間、民法通りやっていると、権利関係が複雑なため、複数の中の誰かが相続人代表として、家賃の振込先などを決めていくことが多いです。
借主が死亡した場合
1.相続人がいる場合
借主が死亡したとき、借主に相続人がいる場合には、相続人が賃借権を承継します。ただし、公営住宅については当然承継ではないようです(判例)。
貸主が相続後賃貸借契約を債務不履行により解除する場合、複数の相続人が賃借権を承継したときには、原則として相続人全員に対して未払賃料の支払いを催告し、解除の意思表示をしなければなりません。
ただし、多くの裁判例では、催告・解除について、全員に対するのではなく、一人に対する意思表示で足りると判示しています。
では、借主が内縁の配偶者と居住している一方で、借主に相続人がいる場合に、相続人が内縁の配偶者に賃貸不動産の立退きを求めた場合、どうなるのでしょうか。
相続人が賃借権を承継するが、内縁の配偶者は相続人ではないため、内縁の配偶者は立退きを求められると性格の基盤を奪われ、生活上重大な支障を来たすことになります。
そこで、判例では、内縁の配偶者等の同居者が引続き居住できるようにすべきであるとしています。(最判昭42.2.21、最判昭42.4.28)
2.相続人がいない場合
借主が相続人なしに死亡した場合でも、事実上の夫婦関係・養親子関係にある者が同居しているときは、当該同居者が特に反対の意思表示をしない限り、賃貸借契約を承継することになります。
※借地借家法第36条(居住用建物の賃貸借の承継)
1.居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2.前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。
3.借主が複数の場合と賃料
借主が死亡して、相続人が複数の場合、貸主は、相続人各々に対して賃料支払いの請求をすることができます。つまり、相続人の誰か一人に対して、賃料全額の支払いの請求をすることができます。
これは、賃貸不動産の借主が複数の場合、借主の債務は、賃貸不動産を使用収益するという不可分な給付の対価としての賃料債務である。そのため、共同借主の賃料債務は分割債務になるのではなく、不可分債務となる(大判大11.11.24)からです。そのため、共同借主各々は、貸主に対して賃料全額の支払債務を負うことになります。
※民法第430条(不可分債務)
第4款(連帯債務)の規定(第440条の規定を除く。)は、債務の目的がその性質上不可分である場合にお いて、数人の債務者があるときについて準用する。
※民法第436条(連帯債務者に対する履行の請求)
債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
4.借主が複数の場合と契約解除
民法第544条第1項で「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。」とあり、借主全員に対して解除権を行使する必要があります。
※しかし、判例には、催告・解除について全員に対するものではなく、一人に対する意思表示で足りるとしているものも多いようです。
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