賃貸借契約における法律上の借主の義務
「賃貸不動産経営管理士試験に役立つ!賃貸借契約について学ぼう!」大家さんにも、入居者さんにも、初めて賃貸に住もうと思っている方にも、そして、賃貸不動産経営管理士試験を受けようと思っている方にも役立つような、賃貸借契約について連載していきます。特に賃貸不動産経営管理士試験の受験者の方にとって隙間時間にスマホで見直せるようまとめています。是非ご参考にしていただければ幸いです。
今回は、賃貸借契約上の借主の義務についてです。
賃貸借契約を締結すると、借主には次のような法律上の義務が発生します。
賃料支払い義務
善管注意義務(保管義務)
用法遵守義務
通知義務
修繕受任義務
これら法律上の義務は、賃貸借契約書に記載されていなくても発生するものです。最近では、これらの内容は賃貸借契約書にも記載されています。そのためか、これらの借主の義務が、賃貸借契約書に記載されているからやむを得ないと思っている人も多くなっているような気がします。
そして、借主は、これらの義務に違反すると損害賠償責任を負い、契約が解除される場合があります。
借主は、しっかりと借主の義務を把握したうえで、共同住宅での生活することが必要となります。
※賃貸不動産経営管理士試験では、借主の義務と貸主の義務の両方を絡めて出題されることもあるので、「貸主の義務」も並行して学んでください。
賃料支払義務
賃貸借契約において借主が賃料を支払うことは、当たり前のこととして認識されています。
借主が賃料を支払うことは当たり前ですが、なぜ当たり前かというと、
賃貸借契約が締結されると、貸主は借主に賃貸物件を使用させるという義務を負い、借主は貸主にその対価としての賃料を支払う義務を負うことになるからです。これは民法第601条に規定されています。
ここ以降の賃料に関する内容は、賃貸不動産経営管理士試験用となります。
では、賃貸不動産が使用収益することが出来ない場合の賃料はどのように扱われるのでしょうか。
・貸主に帰責性がある場合で、賃貸不動産全部が使用収益できないときは、賃料が生じない(東京地判平20.4.11)
・借主に帰責性がある場合で、賃貸不動産全部が使用収益できないときは、借主は賃料支払義務を負う(東京地判平24.7.20)
・契約当事者双方に帰責事由がない場合で、賃貸不動産を借主に使用収益させることができないときは、貸主は賃料を受ける権利を有しない(東京地判平21.5.29)
・賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。(民法第611条第1項)
※民法第601条(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた者を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
※民法第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
1.賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2.賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
善管注意義務(保管義務)
借主には、契約などに定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければなりません。いわゆる、借主には、善管注意義務が発生します。
善管注意義務は、債務者の職業、その属する社会的・経済的な地位などにおいて一般に要求されるだけの注意をいい、「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」を負う(民法第659条)よりも、重い注意義務です。
・失火により賃貸不動産を滅失させた場合、保管義務違反による債務不履行責任を負う。
・転借人の故意・過失による賃貸不動産の毀損については、転貸人(借主)は貸主に対して債務不履行責任を負う。
※善管注意義務は、自己の財産におけると同一の注意よりも重い注意義務です。
つまり、人の物だから自分の物より大事に扱うようにということです。
この義務には、物理的に建物を汚さなければいい、傷つけなければいいといった程度のものではなく、使用方法においても、他人の迷惑となるような行為をしてはならないという義務も含まれていると解されています。
そして、保管義務違反による損害賠償請求は、貸主が賃貸物件の返還を受けたときから1年以内に行わなければなりません。
※民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
※民法第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
1.契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。
用法遵守義務
借主は、賃貸借契約や賃貸不動産の性質によって定まった用法に従わなければなりません。そして、用法遵守義務に違反した場合は、用法遵守義務違反として債務不履行責任を負うことになります。
賃貸借契約には、禁止行為という項目に記載されていることが多いです。この禁止行為には、絶対的禁止行為、貸主の承諾が必要な行為、貸主への通知が必要な行為に分かれています。借主は、これらの禁止行為を守らなければなりません。
※禁止行為の例
・絶対的禁止行為:排水管を腐食させるおそれのある液体を流すこと。大音量でテレビ、ステレオ等の操作、楽器等の演奏をすること。など
・貸主の承諾が必要な行為:共用部分に物品を置くこと。ペットの飼育。など
・貸主への通知が必要な行為:新たな同居人の追加。1か月以上留守にすること。など
そして、用法遵守義務違反による損害賠償請求は、貸主が賃貸物件の返還を受けたときから1年以内に行わなければなりません。
判例には、用法遵守義務違反となる例がいくつかあります。簡単にご紹介します。
・ゴミ等の放置は信頼関係破壊に当たるとして、賃貸借契約の解除を認めた(東京地判平10.6.26)
・隣人への迷惑行為を繰り返し、隣室が空室状態になったことは、賃貸借契約上の信頼関係破壊と評価することができ、そのことを理由とする解除は有効であるとした(東京地判平10.5.12)
・区分所有建物における専有部分の借主が住居専用部分を事務所として使用していることが区分所有者の共同生活の維持を困難にするとして、賃貸借契約の解除および借主に対する明渡請求が認められた(東京地裁八王子支部平5.7.9)
・賃貸借契約上ペット飼育の禁止が規定されていない場合でも、通常許容される範囲を超えたペットの飼育があった場合には、契約解除が認められる(東京地判昭62.3.2)
※民法第594条(借主による使用及び収益)
1.借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
2.借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3.借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
通知義務
借主は、賃貸不動産が修理を要するときは、その旨を貸主に通知しなければなりません。
例えば、部屋に雨漏りが発生した、トイレのタンク下から水漏れが発生したなど、借主からすればまだ大したことないなと放置することは通知義務違反となります。仮に、この貸主への通知をしなかったために、壁が腐ったり、床が腐ったりした場合には、借主は通知義務違反として損害賠償責任を負うことになります。
また、賃貸不動産について権利を主張する者がある場合には、借主は、貸主がすでにこれいを知っている場合を除き、遅滞なくこれを貸主に通知しなければなりません。
※民法第615条(賃借人の通知義務)
賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なく、その旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。
修繕受忍義務
貸主が賃貸部動産の保存に必要な修繕等を行ときは、借主はこれを拒むことはできません。貸主にとっては、修繕については義務であり権利でもあることから、借主は修繕の受忍義務が発生します。この修繕受忍義務を違反すると契約の解除事由になります。
一方で、貸主が借主の意思に反して保存行為(修繕行為)をすることにより、借主が賃貸借の目的を達成できない場合には、借主は賃貸借契約を解除することができます。
※民法第606条(賃貸人による修繕義務)
1.賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2.賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
※民法第607条(賃借人の意思に反する保存行為)
賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
※過去の記事に事例があります。
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