賃貸借契約における法律上の貸主の義務
「賃貸不動産経営管理士試験に役立つ!賃貸借契約について学ぼう!」ということで、大家さんにも、入居者さんにも、初めて賃貸に住もうと思っている方にも、そして、賃貸不動産経営管理士試験を受けようと思っている方にも役立つような、賃貸借契約について連載していきます。特に賃貸不動産経営管理士試験の受験者の方にとって隙間時間にスマホで見直せるようまとめています。是非ご参考にしていただければ幸いです。
今回は、賃貸借契約上の貸主の義務についてです。
賃貸借契約を締結すると、貸主には法律上の義務が発生します。
大きく分けると、使用収益させる義務、修繕義務の2つになります。
この2つが貸主の義務の2大柱になります。
※賃貸不動産経営管理士試験では、借主の義務と貸主の義務の両方を絡めて出題されることもあるので、「借主の義務」も並行して学んでください。
使用収益させる義務
1.使用収益
貸主は、借主に対して、契約と目的物の性質により定まった使用方法にしたがって、目的物を使用及び収益させる義務を負います。
この貸主の目的物を使用収益させる義務には、引渡後に借主の使用に支障がない状態を積極的に維持することも含まれます。
※判例:貸主は、「建物が通常備えるべき防火及び消防に必要な設備、性能を有する状態で使用収益させる義務を負っていた」(東京地判平24.8.29)
共用部分についても、これらを管理し、借主に使用させる義務を負います。
また、他人の物を賃貸借の目的としたときは、貸主は借主に対して義務を負います(民法第561条・第559条)。サブリース契約のような転貸借で、他人の物での賃貸であっても、貸主は借主に対して、目的物を使用させる義務を負います。
ただし、貸主は、借主が希望する使用目的を全て可能にしなければならない義務までは負いません。(東京地判平15.9.11)
※民法第601条(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた者を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
2.居住の支障の除去
そして、借主の居住目的を妨げるような支障がある場合には、貸主はこの支障となる障害を除去する義務を負うことにもなります。
<判例を見てみよう!>
・借主が貸主に対して、隣人の迷惑行為で部屋を平穏な状態で使用収益することが出来ないとして隣人の退去を求めた事案で、「賃貸期間中、本件貸室を住居として使用するに適する平穏な状態で使用収益させる義務を負っていたというべきである」としています。(東京地判平24.3.25)
・上階の風呂場から漏水が発生し、下階に漏水事故が発生した場合に、下階の借主が上階の借主と貸主に損害賠償を求めた事案では、「上階の借主が風呂場の排水口を詰まらせて発生したものであって、このような場合にも下の階に漏水しないように防止策を講じてまでの義務が貸主にあるとは考えられない」としましています。(東京地判平22.8.27)
修繕義務
貸主は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕義務を負います。これは、賃貸物を使用収益をさせる義務の当然の帰結です。
そして、賃貸不動産の破損等が天変地異や不可抗力によって生じたとしても、貸主は修繕義務を負います。
修繕の対象は、賃貸不動産の使用に必要な共用部分についても修繕義務が生じます(判例)。
修繕が不可能な場合には、修繕義務は生じません。これは、物理的な不可能だけではなく、経済的な不可能も含まれます(判例)。
ただし、賃貸物に破損等が生じても、それが借主による使用収益を妨げるものではない場合は、貸主に修繕義務は生じません(判例)。
そして、貸主が修繕義務を負う以上、貸主が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、借主はこれを拒むことはできません。
※民法第606条(賃貸人による修繕等)
1.賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2.賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
修繕費用の負担
1.修繕費用の負担
修繕費用は、通常、使用収益の対価としての賃料に含まれているものだから、貸主に修繕義務の費用負担があるとされています。
ただし、貸主が修繕義務を負担する旨の特約は有効となります。
2.借主の費用償還請求
◇必要費償還請求権
貸主が行うべき修繕を借主が行い、その費用を借主が負担した場合、借主は貸主に対して直ちに費用を償還請求することができます。
例えば、借主が雨漏りへの対応など通常の用法に適する状態にするために支出した費用が必要費になります。
借主が請求したにもかかわらず貸主が費用を支払わない場合は、賃貸不動産の明渡しを拒むことができます。これは、借主は必要費償還請求権を被担保債権として留置権を行使することができるからです。(民法第295条)
また、この必要費償還請求権は、借主が貸主に対して請求できる権利であるので、借主が修理を業者に依頼した場合、その業者は貸主に対して必要費償還請求権を有していません。
◇有益費償還請求権
借主が物件の改良のために支出した費用は、契約終了時に物件の価格の増加が現存する場合に、支出した費用又は増加額の償還を借主が貸主に請求することができます。
例えば、判例で認められたものとしては、汲み取り式トイレを水洗化にした、物件の前面道路のコンクリート工事など。
◇造作買取請求権
借主が貸主の同意を得て賃貸不動産に附加した造作場ある場合に、契約終了時に、借主が貸主に対して、その造作を時価で買い取ることを請求することができます。
例えば、判例で認められたものとしては、空調設備、給湯設備などがあります。
この造作買取請求権は、借主が買取請求の意思表示をし、その意思表示が貸主に到達すれば、借主を売主、貸主を買主とする売買契約が成立します。
ただし、これらの借主の請求権は、任意規定であり、賃貸借契約の特約等で放棄することができます。
実務的な話ですが、昨今の賃貸借契約書では、有益費償還請求権、造作買取請求権については、借主が放棄する旨の内容となっていますので、借主は有益費償還請求権、造作買取請求権はまずないと思っていた方がいいです。
※民法第608条(賃借人による償還請求)
1.賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
2.賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
※民法第196条(占有者による費用の償還請求)
1.占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2.占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
※借地借家法第33条(造作買取請求権)
1.建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
2.前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。
修繕義務違反
1.賃借人による修繕
賃借物の修繕が必要である場合において、借主が貸主に修繕が必要である旨を通知し、又は貸主がその旨を知ったにもかかわらず、貸主が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、また、急迫の事情があるときには、借主がその修繕をすることができます。
民法第607条の2(賃借人による修繕)
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
2.修繕義務違反の効果
貸主が必要な修繕を行わないことによって借主が目的に従って使用収益できない状況が生じた場合には、貸主は債務不履行責任を負います。
また、必要な修繕を行わないことで物件に瑕疵が焼死、その瑕疵を原因として損害等が生じた場合には、貸主は工作物責任を理由に損害賠償責任を負います。
さらには、貸主が修繕義務を怠り、借主が目的物を全く使用することが出来なかった場合には、借主は、その期間の賃料全額の支払いを免れます(判例)。
そして、新民法では、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」となりました。
※民法第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
1.賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2.賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
関連した記事を読む
- 2023/07/21
- 2023/07/17
- 2022/11/14
- 2022/08/07