賃貸借契約書に署名捺印したあとにキャンセルはできる?判例を見てみよう!
賃貸借契約書に記名押印をした借主が、貸室の入居日は決まっておらず鍵の引渡を受けて
いないことから未だ契約は成立していないとして、貸主に支払った契約代金の返還を求め
たという事案の判例があります。
借主が記名押印した賃貸借契約書には契約期間が平成27年6月30日(入居可能日)か
ら平成29年6月29日までとなっており、平成27年7月8日付でキャンセルするという書面を送付し貸主は平成27年7月11日付で受け取りました。
「賃貸借契約のキャンセルはいつまでできる?」という記事で、契約前と契約後ではキャンセルか解約になるという話をしました。
今回は、実際に判例はどうなのか?という内容です。
※この判例の詳しい内容はこちら
「契約書に署名押印したが鍵の引渡しを受けていないこと等をもって賃貸借契約が成立していないとした借主の主張が棄却された事例」(東京地判 平29・4・11)
借主の主張及び裁判所の判断
借主は「①アパート保険の契約が未締結であったこと、②入居日が決まっていなかったこと、③鍵を受け取っていなかったこと、④本件建物の掃除・リフォームがされていなかったこと」を主張しています。
裁判所は、
平成27年6月15日に、借主が本件契約書に記名又は署名及び押印をしてこれを取り交わしているのであって、その旨合意していたことが明らかであるから、本契約は、その時点において成立したと認められる。
借主の主張は、いずれの点も賃貸借契約の成立要件には当たらないことが明らかであって、これらの事実が本契約の条件とされていた旨の主張・立証もないから、主張自体失当である。
としました。
キャンセルではなく契約解除になる
簡単に言えば、賃貸借契約書に署名捺印をした時点で契約は成立していますということです。
つまり、契約が成立しているので、キャンセルではなく契約解除になります。
契約解除後の処理
では、契約が成立しているのでキャンセルではなく契約解除ということは、どのような処理が行われるのでしょうか。
契約解除をした借主は何が返金されるのでしょうか。
・返金となる主な項目は、賃料、敷金、鍵交換費(鍵の引渡をしていないため)。
・返金とならない主な項目は、礼金、仲介手数料。
となります。
しかし、賃貸借契約書のなかには、様々な特約が記載されていることがあります。この特約に沿って処理されていきます。そのため、特約の内容によっては、賃料が戻らないどころか、さらに支払う必要がでてきます。また、敷金も償却などの特約があれば戻らなくなります。
この裁判の事案を例に見ていきます。この事案の特約に記載されていた事項によると、
①契約解除について
借主は2か月前の書面通告、もしくは2か月分の賃料相当額を貸主に支払うことによって契約を解除できる。ただし、契約開始日より平成29年1月末日までは解約ができないが、借主都合によりやむを得ず解約する場合は、貸主に違約金として賃料の1か月分相当額を支払う。
②敷金償却について
借主が毎年2月1日から3月10日までの間以外の期間に退去した場合、敷金5万円を償却する。
となっています。
①について
解約通告が2か月前もしくは2か月分の賃料相当額での即時解約となっていることから、借主は2か月分の賃料相当額を支払う必要があります。
さらには、短期違約金という特約があるため、違約金として賃料の1か月分相当額を支払う必要があります。
②について
解約日が2月1日から3月10日までの間ではないため、敷金の償却が発生し敷金が全額戻らないことになります。
まとめ
入居日前であっても賃貸借契約書に署名捺印をすると契約は成立します。
契約が成立すると、キャンセルという扱いではなく契約解除となります。
つまり、契約書の内容に沿った契約解除が行われるため、支払った契約金はほぼ返金されず、むしろ、解約のための違約金などが発生する場合までありえます。
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